グローバルSDGs講師育成講座受講生のレポートを紹介します。

Lesson3の課題:SDGsの17のゴールのうち特に関心を持つ目標は?


今回、福島原発処理水の海洋放出について取り上げたいと思います。身近な問題であり、かつ国際的な問題でもあるからです。また、海洋放出そのものだけではなく、エネルギーの問題や廃棄物の処理の問題まで考えることができるからです。

 まず、背景をまとめてみます。2011年の東日本大震災で起きた津波により引き起こされた福島第一原発の事故はチェルノブイリ原発事故後、最も大きな原発事故でした。核燃料を冷やすための冷却水や建屋内に入った地下水や雨水などの汚染水から放射性物質の多くを取り除いた処理水を、タンクに入れて貯蔵していましたが、貯蔵箇所の限界もあり、処理水の海洋放出が2年前に決定されています。処理水には、除去できないトリチウムという放射性物質などが残っています。IAEAの査察では、安全基準を満たしているという報告があり、地元との話し合いも続けられていましたが、8月24日に処理水放出を行いました。1年目は4回行われ、これが30年続くことになっています。

 トリチウムは自然界にも存在しているものであり、放出にあたってはトリチウムの量は基準よりもはるかに低く抑えられていると報告されています。普段より核施設からトリチウムを含んだ水の放水は行われており、フランスや中国の核施設からだされた処理水よりもだいぶ低い値であると言われています。また、体内に取り入れられても排出が早いとも言われています。

 しかし、地元の人々は不安を表明し、漁業関係者は反対をしている人が多い状態です。全漁連の会長は「科学的安全と社会的安心は異なる」と述べています。中国は日本の水産物の輸入を全面禁止し、近隣諸国でも部分的な禁輸措置や懸念の表明をしているところがあります。

 ここで出てくる問題は、まず環境の問題です。SDGs14のLife Below Water に関連します。トリチウムは微量で問題にするほどではないという見解がIAEAから出ていますが、科学者の中には、それだからといって安全とは言い切れないと言っている人たちもいます。自然界に存在しているものと、長期タンク保存された中にあるものは異なるとも言われています。また、福島原発の汚染水は核燃料デブリに直接触れた水なので放射性物質以外のものを含む可能性もあるそうです。それらの放出による海底や海の生物への影響、人体への影響は予測できません。

 海洋放水のトリチウムの問題に関しては、トリチウムの分離技術が研究されています。7月25日づけの日刊工業新聞では東京理科大学の新技術開発を載せていました。現実に応用していくにはまだ時間がかかるのかもしれませんが、放出していかなければならないのであれば、これらの技術開発への取り組みは欠かせないと思います。

 また、処理水がたまっていく大きな原因は、地下水の流入だそうです。地下水が建屋に流入し汚染され処理されていくそうです。地下水流入を止めることが不十分なようです。その点についてこの問題を研究している地質研究グループもあります。政府や東電から出される資料には、地質的資料は詳しくなく、また立ち入り禁止区域のため実際の地質調査はしにくいようです。しかし、地下水流入をしっかり止めることができれば、タンクが満杯となって放出しなければならないという事態は防げるのかもしれません。

 放出による不安は、漁業関係者の生活にも影響していきます。8のDecent Work and Economic Growthに関係し、漁業従事者の働きやすさ、やりがい、安定した収入というものを損なう形になります。政府は損害に対する補償、海水と魚のトリチウム含有量の検査とそのデータの公開を行うことになっています。また、IAEAも独自に事務所を置き、放出を観察していくことになっています。しかし公の報告があってもなかなか不安は払拭できません。東電や政府のデータや処理に対して完全な信用があるわけでもありません。処理施設も何度か不具合を起こしていますし、必ずしも全てのデータを明らかにしているとは言えないからのようです。IAEAにしても、日本はIAEA への拠出金の割合が高く、また人員も出しています。このあたりから、独立性への疑念も生まれてきます。

 BBCJAPAN7月17日の記事には福島のNPO法人「いわき放射能市民測定室たらちね」の活動がありました。震災後自分たちで放射線測定を行いデータ公開をしてきています。「子供たちに食べさせられる安全なものを探すためにこの研究室を立ち上げた」そうです。市民レベルの視点での放射線測定は日常生活に直接関係あるデータであり、長年の測定で、「少しずつ放射性物質が食物の中から減少していることを確認してきた」という言葉は重みがあります。

 高校生新聞では、8月24日福島第一原発の処理水 『「安全なのに反対意見が出るのはなぜ?」高校生が研究』という記事がでていました。海洋放水が安全と言われているにも関わらずなぜ反対がでるのかという疑問から探求学習のテーマにしたそうです。漁師へのインタビューも自身で行っています。このような動きは、Lesson 2の課題で扱った4Good Education の4,7のターゲットの実現化の1つだと思います。この生徒は、自分で獲得した情報をもとに中学生とのグループディスカッションも実施しています。このような動きを通して、環境の問題や地元の生活の安定などへの解決につながっていくことができるかもしれないと期待しています。

 ところで、私自身がこの海洋放出に興味のある理由は、主にエネルギーの課題から生じています。福島の事故以降、原子力発電に対する不安があり、異なるエネルギー源への転換が必要だと思っていました。SDGs 7 Affordable And Clean Energy と12のResposible Consumption And Production に関わる問題だと思っています。しかし、ロシアウクライナの戦争による世界的なエネルギー供給の不安定さや脱炭素依存社会に向けての動きから、政府は一度は抑え気味であった原発政策の方向転換をしています。安全であると言われて建設された原発が、2011年に事故を起こし、その後12年たっても事故処理に色々な問題を含んでいる状況にもかかわらず、原発を推進していこうとしていると感じます。また、事故を起こさなくても、核廃棄物の最終処理の問題があります。最終処分選定地をめぐっての報道が現在よく流れています。

 原子力を避けたいと思っても、異常な今夏の暑さによって原子力発電への依存が高くなります。物価は上がり、電気代等も世界情勢を受けて上がらざるを得ない状況で、原子力の発電を使うことで、電力会社は個々の家庭の電気代負担を低くしています。

 このように課題は様々に絡んでいるということを改めて感じています。課題に取り組むためには、それによっておこるかもしれない負の効果も考えていくことが必要だと思います。

R.O


福島原発処理水の海洋放出については、日本はもちろん、海外でも大きな話題になっています。

その是非については賛否両論あります。様々な意見があって、両極端な賛成派と反対派がお互いに非科学的だとか感情的だとか言い合っているようです。

様々な専門家の話を聞いてみると、海洋放出の影響については結局「わからない」というのが現実だと思います。だからこそ、慎重な決断や透明性のある説明が必要でしょう。

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