グローバルSDGs講師育成講座受講生のレポートを紹介します。
Lesson 16の課題:
外国で行われているSDGsへの取り組みの中で、自分がいいと思っているもの、参考にしたいものについてまとめる
1. はじめに
アイスランドは「世界でもっとも男女平等な国」と言われており、各国の男女格差の度合いを指数化して順位をつける「世界ジェンダーギャップ指数」は10年連続1位である。日本の順位はどうかというと、149カ国中110位。日本ではジェンダー格差が大きい。SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」のアイルランドの取り組みは、日本とは違い大変興味深いと感じた。それについてもう少し調べてみたいと思った。
アイスランドはもともとは「男性優位」の社会でありましたが、ジェンダー平等を実現するターニングポイントとなったのが、1975年10月24日に「女性の休日」と呼ばれる大規模ストライキです。会社での男女格差や性別での役割分担に抗議し、9割以上の女性が家事や職場をボイコットして参加しました。それにより、人々の意識が変わり、ジェンダー平等の政策がとられてきました。現在のアイスランドのジェンダー平等の取り組みは以下のようになっています。
①育児休暇について
アイスランドでは2000年に「育児休暇法」を改訂しました。父親にも母親と同様に5ヶ月の育児休暇取得が義務付けられました。同法律の施行によって、2022年現在では子どもの出生後の有給育児休暇はトータルで12ヶ月取得できます。父親5ヶ月、母親5ヶ月交代で休暇取得後、残りの2ヶ月は夫婦で相談の上どちらかが取得する仕組みです。この期間、給料の約8割(最大50万円)を受け取ることができます。母親単独で育児休暇をすべて取得できないため、必然的に夫婦が協調することになります。育児休暇を義務付けられたことで、父親達から「女性が育児をするべきとの価値観が変わり、育児の楽しみや喜びを知れた」との声も多数聞かれました。
このほか、子どもが8歳になるまでの間にいつでも取得できる4か月の休みも保証されています。
②クォーター制度について
2010年、政治や公共委員会、企業役員の40%以上を女性にすべきという「クォーター制度」が導入されました。それにより、現在も国会議員の4割、閣僚11人中5人が女性を占めており、ジェンダー平等や女性が働きやすい社会への取り組みを行っています。実際に、アイスランドの女性の就業率は80%と世界トップクラスであり、「女性リーダーがいて当たり前」という雰囲気が国民の中に定着しています。
③世界初の男女賃金格差を禁ずる法律制度
2018年1月に「男女平等法」が改正され、世界初となるジェンダー間の賃金格差違憲とする「同一賃金認証法」が施行されました。25人以上の従業員を擁する企業団体や組織には、男女同一賃金の取得証明を義務化し、違反した場合には罰金が科せられます。それにより、現在は男女の賃金格差が95%近くまで解消されました。
④LGBTGIAへの理解と権利の平等
性的マイノリティーへの理解や権利の平等にも意欲的に取り組んでいます。すでに同性結婚は合法化されており、異性間の結婚と同じ権利が保障されています。同案が施行された2010年、同性結婚をした世界初の国家首脳として話題となった、当時の国家首相ヨハンナ・シグルザルドッティル氏の存在も社会への追い風となりました。
⑤ジェンダー予算の導入
2009年からジェンダー予算と呼ばれる特別予算制度を導入し、2016年からは公共財政法に基づき州レベルでの割り当てを義務化しています。予算をジェンダーの視点から公平に分配することで、女性のニーズを反映させ、男女間の格差解消に繋げています。例えば、「主に女性の役割」と認識されてきた「子育てケア」「介護」「育児」に代表されるケア労働、男女間でニーズに差が生じる「ひとり親家庭」「労働環境」、女性の直接的な裨益に関わる「家庭内DVや性犯罪」「出産・産後ケア」「不妊治療」「女性特有の疾患・病気」などに予算が当てられます。
日本では、ジェンダー平等と言いながらも、一歩踏み込んだ政策がとられていない。アイスランドのこれらの取り組みは、法律化することにより強制的に行うものであり、それにより人々の意識の変化も大きい。日本でもぜひ行ってほしい取り組みである。
2.ジェンダー平等の教育について
他にもアイルランドで興味深い取り組みをする教育機関がある。それは、あえて男女分けした教育です。
日本では「女性らしさ」「男性らしさ」というものをなくす傾向にあり、女子の制服をパンツスタイルも選べるようにするなど、現在はジェンダーレスの取り組みを行っている。それなのに、なぜ、世界一ジェンダー平等のアイスランドで男女分けした教育を行っているのだろうか。
その教育をする幼稚園では、毎日「男女分けクラス」の時間を設けている。創業者のマルグレ・パラ・オラスドッティルさんは、長年ジェンダー平等を目指す幼児教育に携わり、男女平等評議会と男女平等大臣から表彰を受けてきた教育者です。近年、「男女分けクラス」にこだわるその教育理念に注目が集まり、ヨーロッパだけでなくオーストラリアなどのメディアにも特集されています。
マルグレさんは、30年以上の幼児教育に携わった経験上、男の子には自立性、女の子には社会性が比較的高いと感じられることが多く、それぞれの遊び方の違いは、男の子ならでは、女の子ならではの別々の「文化(culture)」だと考えています。しかし、男女が一緒に遊んでいるとき、元気のいい男の子が声をあげたり、力を使って場所を占領したりして、女の子が引っ込みがちな姿勢をみせることがよくあり、男女が共に過ごすだけだと、その「文化」が十分に発揮されないと感じています。
男女が平等に暮らすには、平等の法律や権利の理念だけでなく、幼少期から自分らしく過ごすこと、そして社会が「男は、女は、こうあるべき」といった性別役割分担を押しつけないことが大切だと言います。
つまり、男女分けクラスにすると、女の子だけなので『女の子らしい』という考えがなくなり、全てありのままになります。男の子だけのクラスも同様に『男の子らしい』という考えがなくなります。それにより社会が捉える男性性・女性性が、狭い「枠」を取り払っていきます。この幼稚園では、男女分けクラスと同様、毎日必ず男女混合クラスも設けられています。それぞれの違いを排除するのではなく、違いに目を向けないことでもなく、尊重し合って生きていくことです。
この小学校の児童にアンケート調査を実施すると、他の公立小学校よりも「家庭のことは同等に分担すべきだと思う」などのジェンダー平等意識が、男子も女子も高いことがわかっています。
数年前、女として生まれ、男として生きていきたいトランスジェンダーの子がいました。その子は男性名をつかい、周りも「彼」と呼んでいました。男女分けクラスの時間の時、両方のクラスを体験し、自分の意志で「女の子クラス」を選びました。そして、周りも自然にそれを受け入れました。
このように『女性らしさ』『男性らしさ』は強要されるものではなく、女性性、男性性を「文化(culture)」として受け入れている。このように、個性としてお互いの違いを排除することなく受け入れ、その上で同等に分担すべきであるという考えはジェンダー平等の土台であると考える。
3.まとめ
アイスランドでのジェンダー平等の取り組みは、法律や制度で強制的に進めると同時に、子どもたちに教育で、ジェンダーの違いを文化として受け入れそのうえで、お互いに尊重しながら生きていくというジェンダー平等の意識を学んでいる。この土台がなければ、本質的にジェンダー平等の解決にはならない。再策はもちろんであるが、この土台となる教育を日本でも取り入れ、女性性、男性性の共存を目指していくのが望ましいと私は考える。
S.M