外から見ていると日本では気候変動についての関心が低く、メディアでもあまり取り上げられない印象があります。「日本人は環境意識が低い」という声もよく聞きますが、実際に国際的に比較した場合はどうなのでしょうか。これについて、欧米やアジアなど17の先進国を対象に行われた国際意識調査をもとに検証します。
気候変動に関する国際意識調査
この記事では米国のシンクタンク、PEWリサーチセンターが2021年に行った気候変動に関する国際意識調査(PEW)の結果を紹介します。
まずは、欧米やアジアなど17の先進国対象に気候変動について聞いた答えをトータルで見た結果です。
1.「気候変動による影響が自分自身に害を及ぼすことについて心配しているか」との質問
「とても心配している」「いくらか心配している」という人の合計が72%
「あまり心配していない」「全然心配していない」が27%
2.「気候変動の影響を軽減するために生活や働き方を変える意思があるか」との質問
「とてもある」「いくらかある」と答えた人は80%
「少しだけ」「全然ない」と答えた人が19%
3. 気候変動に対しての対策についての質問。
自分たちが属している社会が行っている気候変動対策について
「とてもいい」「いい」56%
「とても悪い」「悪い」44%
4. 国際社会が行っている取り組みが気候変動解決に大きく寄与しているかとの質問に
「とても自信をもっている」「いくらか自信をもっている」46%
「あまり自信がない」「全然自信がない」52%
気候変動に関する意識調査国別
次に気候変動に関する意識調査を国別に見てみましょう。
この調査では「自分が生きている間に自分が気候変動による悪影響を受ける心配があるか」という質問を2015年と2021年に聞いていて、その割合の変化を見ることができます。
この6年間のあいだで、ドイツ、イギリス、オーストラリア、韓国などほとんどの国で「とても心配だ」と思う人の割合が6から19ポイント増えているのに、日本では逆に8ポイント減っています。
下記の表を見ると、米国でも「とても心配だ」という人の割合が少し減っていますが、減り幅は日本ほどではありません。
「自分が生きているうちに気候変動の影響が個人的にあると心配している」人の割合は下記のとおりです。
「非常に心配している」「心配している」人の割合はギリシャ、スペイン、イタリアなど、比較的気温が高い国で顕著です。
一番「心配している」割合が高いのが韓国で、低いのはスウェーデン、オランダ、ベルギーなど比較的気温が低い国々のようです。
日本でも心配している人は74%と、イギリスやスウェーデンといった欧州諸国よりも高くなっています。
気候変動解決のための生活変化
ほとんどの人は気候変動の影響を減らすために、生活する上で何らかの変化を起こそうと思っています。
けれども、その割合を見ると「かなりの変化を起こしたい」「何らかの変化を起こしたい」人の割合は日本が最下位であり、「少しだけ変化を起こしたい」という人の割合が最高となっています。
「何もしたくない」という人は8%で、米国の11%に比べると低いのですが、全体で見ると日本では変化を起こそうと思う人が国際的にみても少ないのがわかります。
「変化を起こしたい」人の割合が多いのはイタリア、ギリシャ、スペインなどの気温が高く、気候変動の影響を個人的に受けることを心配している人が多い国と一致しています。
とはいえ、スウェーデンやイギリスなど個人的には悪影響を受ける心配がないと考える人が多い「涼しい」国でも「変化を起こしたい」と考えている人の割合が多いこともわかります。
性別、年齢、教育水準別の意識
この調査では同じ国内でどのような人々が気候変動に関心があるのかも調査しています。
まず、男女別ではどの国も女性の方が関心が高い結果となっています。
年齢層別
年齢層別に分けると、多くの国では若い人ほど気候変動による影響が自分に及ぶことを心配している傾向にあります。けれども、ギリシャや韓国のような例外も。
国によっては年齢別で意識に幅が大きいところ(例:スウェーデン)もあれば、あまり差がないところ(例:イギリス)もあります。
なお、この表には日本が含まれていません。
教育水準別
「気候変動による地球上の問題を軽減するために自分の生活スタイルや働き方を変える意思があるか」という質問の答えは、回答者の教育水準によってかなりの違いがみられます。
どの国でも教育水準が高いほど「変える」という人が多く、ベルギーやフランスではその差が特に顕著です。イタリアやイギリスでは教育水準による差があまりありません。
日本でも教育水準が高いほど「変える」という人が多いのですが、そもそもその割合が52-61%と低いのが特徴です。イタリアでは92-97%の人が「変える」と言っているのと対照的です。
経済における影響
気候変動に対する対策が経済に影響を与えるかどうかについての質問もあります。
「パリ協定のような取り決めによる気候変動への国際的な取り組みが自国の経済にどのように影響を与えると思うか」の質問に
「いい影響」「変わりなし」「悪い影響」「わからない」と答えた人の割合は下記のとおりです。
スウェーデンや韓国では「いい影響」という人が多いのに対し、日本やフランスでは「悪い影響」と答えた人の方が上回っています。
自国の気候変動政策への満足度
自国の気候変動への取り組みについての満足度を聞いた質問です。(左から「とても悪い」「悪い」「いい」「とてもいい」)
シンガポール、ニュージーランドでは満足度が高く、次がスウェーデン、イギリスと続きます。日本は「いい」と「悪い」がだいたい半々となっています。
まとめ:日本人の環境意識
こうして国際的な比較を見ると、やはり日本では気候変動問題に対する意識が低い傾向にあることがわかります。
日本では気候変動による影響が自分自身に及ぶことを心配している人が74%とかなり多いのですが「とても心配している」という人は26%であり、ここ6年間で34%から減少しています。
さらに顕著なのは、気候変動による影響があるとわかっていながらも、その問題解決に取り組むために個人的に何かをしようと思う人が少ないということです。
ギリシャやイタリアなど気温が高く気候変動の影響を個人的に受けることを心配している国なら、そのように思うのも自然かもしれません。
が、イギリスやスウェーデンなど「涼しい」国の人でも気候変動問題解決のために自分の生活スタイルを変えるという人が多いのと対照的です。このような国では夏でも気温が低く個人的には少しくらい暖かくなるほうが嬉しいくらいです。自分自身に気候変動の悪影響があると思ってはいないのに、地球規模の問題として自分ごとに考える人が多いのです。
これは「Climate Justice(気候正義)」すなはち、気候変動を起こす活動をあまりしていない人々がその悪影響を受けるという不平等な現実についての理解が浸透しているからでしょう。
日本人は内向きで自分の国のことだけを考えがちで、自国が経験する酷暑や台風などの異常気象については考えが及びます。けれども、国際的な問題解決のために自ら何かをしようという人の割合が少ないということなのかもしれません。
これは気候変動対策に限らず、貧困、飢餓、災害、難民、紛争といった国際問題にも共通しているともいえます。今ちまたでバズワードになっている「SDGs」の考え方に共通する課題ですね。
この背景には、気候変動問題を解決するための取り組みが自国経済に悪い影響を与えると考える人の割合が多いということもあるのかもしれません。いくらいいことだとわかっていても、そのコストを払いたくないという人や企業も多いでしょう。
対照的にスウェーデンなど、気候変動対策が経済に与える影響は悪いものよりいいものだという人の割合が多い国もあります。これは政府や環境活動家のコミュニケーションやメディアの役割も影響しているのかもしれません。
そうだとしたら、どうしたらいいのでしょうか。
これについては、次の記事でみていきます。
0件のコメント