6月20日は世界難民の日。おりしも先日成立した入国管理法改定で、日本の難民制度に賛否両論が飛び交っていましたが、その中には日本が難民条約締結国であるという国際責務を無視したものや、そもそも「難民」と「移民」を混同しているものも目につきました。難民とはいったい何なのか、そして日本はそれに対してどのような責任を負うのかについて、この機会に考えてみましょう。
世界難民の日
毎年6月20日は国連が定めた世界難民の日で、難民の権利と保護の重要性を世界に啓発するためのもの。難民とは、自国の国境を越えて他の国に逃れ、生命や自由が危険にさらされている人々のことを指します。戦争、迫害、人権侵害、自然災害などの脅威に直面し、故郷を逃れることを余儀なくされる人の数は世界的に深刻化しています。
国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2022年に1億840万人が、紛争や迫害などが原因で家を追われました。そのうち、難民は約3530万人(うちUNHCRの支援対象者は2940万人、UNRWA支援対象者は590万人)、国内避難民は約6250万人、庇護希望者は約520万人います。
国際難民条約
難民の保護に関する国際的な取り決めである難民条約には日本も1981年から加入しており、ほかの加入国と同様に、難民を保護する国際的な責任を負っています。
難民条約の内容と責任:
- 難民を保護し、その人権と基本的な自由を守ることを求める
- 難民の受け入れ、安全な居住地の提供、教育、雇用、医療などの基本的なニーズの保障、および難民の権利の尊重を要求
- 加盟国は、難民保護に関する国際基準を尊重し、難民問題に対処することを約束する
このように、難民条約を批准している以上、日本はほかの批准国同様、難民を保護する国際的義務を負っています。しかし、現状はどうでしょうか?
日本の難民認定率は2017年の0.2%から多少改善したものの、2021年で0.67%、2022年で2.0%です。他の国と比較すると、英国68.6%、カナダ59.2%、米国45.7%とその差はけた違い。
認定率だけではありません。実際の難民認定数も、日本は他国と比べて低いのです。2017年の20人から2022年には202人に増えたものの、46,000人以上認定しているドイツや米国と比べると、これもけた違いです。「日本は紛争地から遠いから」という人もいますが、カナダでさえ難民を3万人受け入れています。
(出典:難民支援協会 https://www.refugee.or.jp/refugee/japan_recog/)
ちなみに、日本はウクライナから非難した人々を「避難民」として受け入れましたが、これは正式な「難民」としての扱いではなく、例外的なものでした。
たとえば、2011年から迫害により難民認定されたクルド人は約5万人いて、世界中に難民として受け入れられていますが、日本で難民認定されたクルド人はたった1人だけです。どうして、このような状況になっているのでしょうか。
日本の難民政策
日本の難民認定率や認定数が国際的に見るとけたちがいに低いということから、日本では適切な保護を必要としている人々が難民として認定されず、保護の対象から外れてしまっていることが明らかです。この背景には難民受け入れに対する法整備や制度、また難民認定制度の在り方に課題があります。
さらに、難民受け入れに対する社会的な理解や受け入れ体制の整備、難民の社会統合に関する取り組みの充実などの課題もあります。
命の危険から逃げてきた人たちを助けるという倫理的な理由はもちろんですが、それを別にしても、日本が難民条約に加入している以上は、難民問題に対処する国際的な責務もあります。ほかの国が相応の努力をしている中、難民受け入れに厳しい姿勢を示している日本は、国際的にも非難を受けています。このままフリーライドをしていては、先進国としての沽券にもかかわり、国際的な評判に傷がつくことも免れないでしょう。
入管法改定
6月9日に成立した改定入管法については、「入管法の改悪だ」と反対デモが起こったりと抗議の声があがりました。可決した改定案が施行された場合、難民申請が2度不認定になった人々は、原則として強制送還の対象になります。難民認定率がこれだけ低い日本で「難民ではない」と認定されることで命の危険がある国に送還される人たちにとっては死刑に等しいと言われる改定であり、当事者にとっては「改悪」と言わざるを得ません。
一方で「日本国民の方が大事」など、難民の受け入れについて移民や外国人労働者のように国益の観点から語る人もいます。さらには、労働力不足解決のためにといった、経済的必要性から認めざるを得ないといった声も聞きます。けれども、そもそも、難民は移民や外国人労働者に対する対応とは別の問題として考えるべき。「移民」は自らの意思でほかのところに移り住む人であるのに対し「難民」は何らかの外的要因で身の危険があるために、そうせざるを余儀なくされた人々なのです。
日本側にどんな事情があるにせよ、難民条約の締結国である以上、人権の観点から難民を保護する国際的な義務があります。
移民と難民の違い
以前、安倍元首相が、外国人記者に「日本はほかの国のようにシリアやイラク難民を受け入れますか?」と聞かれ、「日本は移民を受け入れるよりも前に、女性や高齢者の活躍、出生率増加に努力する」と答えたことがあります。
英ガーディアン紙ではこのことについてこのように報じました。
「前年の難民受け入れがたった11人だったことについての批判を受け、日本の首相はシリア難民を受け入れる前に自国民の生活水準を上げなければならないと答えた。」
難民問題について、国のトップが基本的な理解も示していないということが知られてしまったのは残念なことですが、一般日本人の中にもこのような意識の人がいまだに多いようなのも問題です。
誰一人取り残さない
SDGsの重要理念である「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」に象徴されるように、遠い外国から逃れてきた人を助けることは、人間として当然のことです。目の前におぼれている人がいたら、誰でも浮き輪を投げるでしょう。もし、投げないで無視するという人は、自分がおぼれている場合を考えてみましょう。誰かに浮き輪を投げてくれと思うのではないでしょうか。
命の危険があるために母国を逃れてきた難民を保護し、社会に受け入れ、医療や基本的な生活の確保だけでなく、日本社会で各自が力を発揮できるように教育、訓練、就業などの機会を与えることは、難民条約に加盟している日本として当然の責務です。日本政府は難民受け入れの方針や対策を見直し、適切な保護や人道支援を提供するための努力を行っていく必要があります。また、難民問題に対する一般の人々の関心や理解を高め、共に取り組む意識を醸成していきたいもの。
さらには、難民問題の根本的な原因である紛争、人権侵害や気候変動などの要因についても、総合的なアプローチを追求することが重要となるでしょう。難民問題は世界的な課題であり、日本も国際社会と連携しながら、解決のための一翼を担うべきです。
* 難民についてもっと知りたい、支援したいという人は、国際機関であるUNHCRのほか、日本国内での難民支援を行っている難民支援協会サイトをご覧ください。